農家民宿

古き良き“農”的暮らしを知る「石畳の宿」

農村体験、自然が豊富、山間、料理がおいしい

内子町の中心部から北へ約12キロ、細い山道を走っているとあらわれるのが、築100年の古民家を利用した宿「石畳の宿」です。町が建物を所有する、いわゆる「公共の宿」なのですが、その外観は「公共の宿」という言葉のイメージとはかけ離れた雰囲気です。

 入口の扉を開けると、昔ながらの玄関と障子の引き戸が。「ようこそ!」と明るい声で出迎えてくれたのは、「石畳の宿」を運営する「さくらの会」の皆さん。内子町に住む40~60代の農家のお母さん方が、料理から宿の管理まで全て一貫して行っています。

 郷愁を誘うその佇まいと、お母さん達の明るい声に、思わず「ただいま」と言いたくなるような宿です。

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宿泊部屋は昔の屋根裏部屋

 太い梁や柱、古い収納具、建具などが残る部屋を抜けると、その奥には囲炉裏が。

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 小さな炭火が赤く静かに燃え、この日の夕食であろうアマゴの塩焼きが焼かれていました。築100年の古民家を移築してきただけあって、新しい建物では決して得られない時を重ねた重厚感を感じます。

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 1階に大広間が1部屋、2階に屋根裏部屋を改築したという宿泊部屋が3部屋あります。今回は2階の宿泊部屋へ。少し天井が低いのも古民家らしくて、古い建物好きにはたまりません。かつての姿をそのまま活かして改築した部屋は、まるで隠れ家にいるようなワクワク感と、実家に帰ってきたような、どこかほっとする気持ちが入り交じり、旅館では味わえない独特な旅情を誘います。

 お風呂は共同の家族風呂が1つ、子供と一緒に入っても充分な広さの湯船があるとのこと。

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新発見!“摘み草”の天ぷらをいただく

 夕食の準備が整ったというので、1階の食事部屋へ向かいました。

 「石畳の宿」では季節の“摘み草”の天ぷらが食べられます。“摘み草”とは、食べられる野草や山菜全般のこと。普段目にしている野草から、珍しい山菜、季節の野菜を取り合わせた天ぷらの盛り合わせは、この宿の名物です。

 この日の天ぷらは、ゴーヤ、赤ジソ、シシトウ、ミョウガなどの夏野菜の他、ドクダミやヨモギ、ゴーヤの葉など、中々普段食べないような山野草や野菜の葉や花。季節によって「こんなものまで!」と思うような野草や薬草など、8種類以上を天ぷらにして提供してくれます。

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 「この地方で食べていた昔ながらのご馳走を少しアレンジしてお出ししているんです」。

 そう話すのは、この宿が営業を開始した当初から関わってきた政岡敬子さん(67歳)。

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 料理のメニューは、約20年前、営業を開始した初代のメンバーが試行錯誤で作ったものなのだといいます。内子町産の素材を使うことはもちろんのこと、メニューづくりで参考にしたのは、この地域の季節の行事や文化。古くは冠婚葬祭も各家々で執り行っており、お正月、お盆など、季節ごとの行事には、各家々で趣向を凝らしたご馳走が並びました。「家ごとにしきたりや料理も少しずつ違った」のだとか。お姑さんからお嫁さんに、脈々と受け継がれてきた地域の暮らしの知恵を、この宿の運営の中で活かしてきたといいます。

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どんなことがあっても手を抜かない、丁寧な料理の数々

 たとえ宿泊客が11人であったとしても手は抜かず、煮しめも、野菜一つひとつ別々に煮て盛り合わせます。そのため、食事当番の人は朝から食材調達に調理にと大忙し。決して修行を積んだ板前さんがいる訳ではありませんが、一品一品丁寧に作る郷土の家庭料理は、素朴でありながら味わい深く、素材を活かした上品な味付けで、そのおいしさが評判を呼び多くのリピーターを生んでいます。

 この日の夕食メニューは以下の通り。椎茸、カボチャ、油揚げなど、季節の野菜やキノコの煮しめ、白和えにキュウリとハスイモの酢の物、囲炉裏で焼いたアマゴの塩焼き、シソと卵とジャコを酢飯に混ぜ込んだシソ寿司、味噌とゆず、辛子、酢を合わせた「味辛子(みがらし)」(絶品!)を蒸かした季節の野菜に付けて頂きます。

 料理一つひとつに、地域のお母さん達の「おもてなしの気持ち」が込められていると感じます。

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古いものを活かす暮らし

 「石畳の宿」は、1994年、「農家の女性達が活躍する場を作り町おこしにつなげよう」という町の方針のもと、空き家になっていた古民家を移築・改築し、農家民泊としての営業を開始しました。もともと、古い町並みや自然を残す住民主体の「村並み保存運動」が軌道にのっていた内子町。「古いものを残して観光資源として活用していこう」という発想が基盤にあったのだといいます。こうして、古民家の雰囲気をそのままに、地元のお母さん達の料理を提供する公共の宿として営業を開始しました。

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 「20年間の間、大変なこともありました。でもお客さんには『これからも続けてください』といわれます」と、お客さんが記したメッセージノートを取り出して、感慨深げに話す政岡さん。

 食事を終え、部屋に戻ると、落ち着いた色の照明が太い梁や柱を照らしていました。布団を敷いて寝転ぶと、畳の香りと外からの虫の声が穏やかな眠りを誘います。ゆったりと流れる「石畳の宿」の時間の中には、この地域で脈々と受け継がれてきた日本の古き良き“農”的暮らしが息づいていました。

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朝ごはんは石畳地区で採れたお米を近くの水車小屋で精米した「水車米」と、生みたての卵。卵かけごはんにするとその濃厚さが際立ちます!

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