農家民宿

木漏れ日の中で眠る宿。「ファームインRAUM古久里来(こくりこ)」

田舎、老夫婦で楽しむ、自然が豊富、山間、料理がおいしい、夫婦で楽しむ

「ようこそ、いらっしゃいませ」。

 夏の木立の間からそう笑顔で出迎えてくれたのは、この宿のオーナーである森長照博さん(73歳)、禮子さん(68歳)ご夫婦。木漏れ日が差し込む小路に誘われながら奥に進むと、和風モダンな入り口を持つ母屋と、大きな木製タンクのような円筒型の個性的な建物が見えてきました。

 ご夫婦の雰囲気と木々の間から吹きこむ風に不思議な心地よさを感じていると、「宿帳を書いてもらったら、隣の円筒型の建物が宿泊棟なので、まずはそちらに荷物を置いてきてくださいね。食事は母屋で準備しています」と奥さまの禮子さんが優しく教えてくれました。

 らせん階段を上がり、宿泊部屋へ。扉を開けると、白壁と木材を基調にした北欧の雰囲気を思わせるモダンなインテリアが出迎えてくれました。角を極力排した開放感のある部屋には清潔なベッド、リラックスチェアが置かれています。小窓から光が差し込み、そこからゆらゆらと緑が揺れる様子が見え、まるで絵画のよう。外の喧騒から遠く離れた空間に来たことを感じさせてくれます。浴室はありませんが、シャワールームとトイレも完備されています。

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内子町の素材を詰め込んだ和風創作料理に舌鼓

 早速夕食の準備ができたというので、母屋へ。夕食は、禮子さんお手製の季節の野菜を使った和風創作料理です。この日のメインは、アユの塩焼き。古久里来の横を流れる清流小田川ではアユ漁が行われていて、季節が合えば夕食メニューに提供するのだといいます。

 その他も、アジの南蛮漬け、肉団子、ゴーヤと豚肉の炒めもの、カボチャのグラタン、季節野菜のサラダなど、丁寧に作られたことが分かる料理の数々が、器の上に上品に盛られています。その真ん中で輝いているおにぎりは、宿の目の前にある田んぼでオーナーご夫婦が栽培したお米を使用しているとのこと。この日は、夏の暑さを忘れさせる自家製紅ショウガを混ぜ込んださわやかな味のショウガご飯。

 聞くと、料理の素材はあえて自分達の所だけではまかなわず、直売所や農家から購入した野菜、地元酪農家から仕入れたチーズなど、地域で販売されているものを積極的に使用しているそうです。それも「自分達の所だけで完結しない、地域と共に作る宿にしたい」という思いがあるからなのだとか。「地域の人達に甘えています」と照博さん。

 そんな素敵な食事を囲みながら、オーナーご夫婦と内子町の歴史やグリーンツーリズムについて、話が弾みます。

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この地域の人々の暮らしに耳を傾ける旅を

 「コクリコ」とは、“ひなげし(ポピー)”のフランス名。その宿名の由来を聞くと、「この場所で『こくりこくり』とうたた寝をするように、ゆったりと過ごして欲しい」という思いを込めたのだと教えてくれました。

 希望があれば田植えや果物狩りなどの農作業体験を案内するそうですが、その宿名の由来通り、この地の穏やかな時間に身を委ねながらゆっくりと過ごす人の方が、意外に多いのだとか。 

 「ふるさとに戻ってくるような感覚で、少しほっとする時をここで過ごしてもらう。それも一つのグリーンツーリズムだと思っています。人は何を求めて旅をするのか、ずっと考え続けてきました。その中で、長い風雪に耐えたこの地の人々の暮らしに耳を傾けるような旅があってもいいのではないかと思ったんです」。そう、古久里来を運営する上で感じていることを穏やかに話してくれた照博さん。

 その思いは周囲の森づくりにも活かされているといいます。今では様々な種類の木々が生い茂る豊かな森に囲まれた古久里来ですが、当初からこの森があった訳ではありません。

 「宿を始めた時、『ここに内子町の原風景を再現しよう』と思ったんです。なので、もともと内子にあった落葉樹などを中心に、森づくりを進めていきました」。

 現在、四季折々に様々な表情を見せてくれる“古久里来の森”。この森と同じように、人には人それぞれの旅の形があります。「そのお手伝いができれば」と謙虚に話すお二人。また、地域のコミュニティホールとしての役割も持ち、コンサートや朗読会なども定期的に行っているそうです。

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内子町のグリーンツーリズムの先駆けとして

 もともと役場の職員だった照博さんは、全国的にも先駆けて、グリーンツーリズムに取り組む町の方針を模索してきたひとりでした。ある時、フランスやイギリスなどヨーロッパへの視察に参加、そこで「農家民泊で働く女性達が気品にあふれ、輝いてみえた」のだそうです。女性が輝くことが日本の地域振興につながると感じた照博さんは、帰国後、禮子さんに「宿をやってみないか」と持ちかけたそうです。

 「私は専業主婦だったので、『いつか何かやりたい』と漠然と思っていました。話があった時、あまり深く考えず、幸い料理は好きな方だったので始めたんです」と禮子さんは笑いながら当時のことを振り返ります。

 内子町の民泊の先駆けとして、1995年にオープンし古久里来。それから21年、「来る人に安らぎを、出発する人には幸せを」というコンセプトを変えることなく、営業を続けているのだといいます。

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時計もテレビもない、安らぎの空間

 楽しいおしゃべりと食事を終え、宿泊棟に戻ってきました。

 この部屋には、時計もテレビも電話もありません。「希望があればテレビの貸出もしますよ」とのことですが、この空間には必要無さそうです。

 お風呂を希望する人には、3年前に作ったという離れにある「五右衛門風呂」を薪で沸かしてくれます。この日は既に遅かったので、五右衛門風呂はまた次の機会に。

 夜はすでにふけ、虫の声と風の音が聞こえます。ベッドに体を沈めると、すぐに穏やかなに眠りにつくことができました。慌ただしい日常の中で忘れかけていた大事なことを、思い起こさせてくれる古久里来。忙しい日々で疲れた体を癒しに、ぜひ、“古久里来の森”を訪ねてみては。

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