農家レストラン

まるで原宿の人気店!? 開店前から行列ができる山あいの農家レストランの人気って?

山間

行列のできる店の正体は、なんの変哲もない農家レストラン

三重県のほぼ中央に位置する山あいの村勢和(せいわ)。お世辞にもアクセスの良いとは言えない場所に、まるで原宿のかき氷店のように行列のできる店があると言います。

その名は「せいわの里 まめや」。農家のお母さんたちが地元の野菜を使って作ったお総菜が味わえる農家レストランということですが、こんなにも人々を魅了する理由とは何なのでしょうか。早速行ってみることにしましょう。

到着したのは開店準備中の11時少し前。既に数人の気の早いお客さんが開店を今か今かと待っています。

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さあ、11時になりました。開店と共に店内へ。中央のテーブルには、本日のお総菜がずらりと並びます。手作り豆腐に卯の花、おからサラダに煎り大豆、おからカレーやおからコロッケなど、「まめや」という名前の通り、大豆を使ったメニューが中心のよう。

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ブッフェ台の周りをうろうろしている間に、さらに一品カウンターに並びました。揚げたてのおからコロッケ。美味しそう!

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おや、待って下さい。これはなあに?

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藁に突き刺さっているのは、なんと鮎!これは地元の川で捕れた鮎を炭火焼きにしたもので、ダシをとったりご飯などに使われるそうです。その鮎を使った料理がこれ。

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炙った鮎のダシで食べる「鮎そうめん」です。なんて贅沢!

本日はもうひとつ鮎を使った料理「鮎飯」がありました。いずれも夏場のみ登場するスペシャルメニューです。

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バイキングなので、好きなものを好きなだけ食べられるのが嬉しいですね。この日のランチはこんな感じになりました。豪華~!

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ちょっと欲張っていっぱいとってしまいましたが、野菜や大豆メインでヘルシーだし、味付けも市販のお総菜と違って薄め。素材の味がしっかりと感じられ、いくらでも食べられそうです。鮎ご飯のふくよかな香りもたまらない!田舎のおばあちゃんの家で食べるような味で、なんだかほっと癒されます。なるほど、この味に惹かれて皆ここを訪れるんですね。確かにこれが1200円というのはとてもお得。行列ができるのも納得です。

年々寂しくなる農村。「なんとかしなければ」とお母さんが立ち上がった!

結局12時を過ぎる頃には満員御礼。「せいわの里 まめや」には、この成功の理由を知りたいと、全国から視察に訪れる人が後を絶たないのだとか。一体どんな敏腕オーナーがプロデュースしているのかと思ったら、迎えてくれたのは小柄で笑顔が素敵な北川静子さん。明るく、良く笑い、良く喋る、一見ごく普通のお母さんです。

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北川さんが「せいわの里 まめや」を立ち上げたのは平成17年のこと。勤めていた村役場を辞めてのスタートでした。村役場にいるときから、年々過疎化、高齢化が進む農村の状況に焦りを感じていた北川さん。しかし具体的な解決策はなかなか見つかりませんでした。そんなとき、ひょんなことからお米の成分を計る食味計で勢和のお米を計ったところ、なんとブランド米として知られる新潟の魚沼産コシヒカリの75を超える82という数値が。これまで当たり前だと思っていた勢和の食べ物は、実は“とっておきのもの”なのではないかと考えるようになったと言います。

もうひとつ、北川さんを動かした出来事がありました。それは地域のボランティアグループで、あるイベントのために1万以上の花のプランターを育てたときのこと。朝夕の水やりや剪定など、とても大変だったはずなのに、誰1人文句を言わず作業を続け、イベントは大成功を収めました。そのときに感じた強烈な連帯感と達成感。村人1人1人は素晴らしい力を秘めている。道を示すリーダーさえいれば、村を変えることができるはず。北川さんはそう確信しました。

そして50歳のとき、皆の反対を押し切って村役場を退職。東奔西走し出資者を募った結果35名からの協力が得られ、なんとか開店資金を確保しました。さて、建物はできたものの、レストランに置くテーブルや椅子、食器を揃えるお金がない。そこで村の人々が、自分の家で使わなくなった食器や家具を持ち寄ったり、古い着物を仕立て直して座布団を作り、なんとかオープンにこぎ着けたと言います。レストランの食器がばらばらなのはその名残。今やそれもこのレストランの味わいのひとつとなっています。

徹底的に無駄をなくして、眠っていた貴重な能力を発掘

レストランのお総菜は完全な日替わりです。理由は毎朝地元の農家が持ち込んだ野菜を見てメニューを決めるから。「若いほうれん草ならさっと湯がくのが一番。30㎝程度のものならおひたしに、60㎝以上あるほうれん草は生で食べるには硬いけれどきんぴらや天ぷらにすると絶品よ」と語る北川さん。全てこの地で昔から培われてきた農家の知恵です。

「せいわの里 まめや」には直売所が併設されています。普通の直売所では、農家は直売所で売れ残った野菜を引き取らなければなりませんが、ここでは余った野菜は、レストランで調理されるので廃棄はありません。また、レストランのお総菜は直売所でも販売。単身で住むお年寄りをはじめ、地元の人々にも好評です。通常の直売所やレストランではどうしても生じてしまう廃棄というものを、ここでは徹底してなくしました。

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また、レストランを支えるのは、地元の20代~80代までの約35名の調理スタッフ。働き方はフレキシブルで、小さな子供がいるお母さんは9時~14時まで、体力的に少し辛いなと感じるお年寄りは週3日の勤務でもOK。ライフスタイルに応じて無理なく働ける場を提供しています。

農村に眠っていた貴重な労働力と能力を発掘したことは、「せいわの里 まめや」の大きな功績の1つです。

皆が誇りを持って、生き生きと暮らせる村にしたい

当初は「田舎料理を食べさせるレストランなんて流行るわけがない」と言われたものの、蓋を開けてみたら大繁盛。これまで何の変哲もないと思っていた農村の家庭料理が評価されたことにより、自分たちの風土や文化に誇りが持て、村人たちの意識が少しずつ変わってきたと言います。

北川さんの目標は、この地に長らく受け継がれてきた文化を次世代に継承すること。

「まだまだ道半ば。やることはいっぱいあるのよ」と話す北川さんは、その小さな体の一体どこにそんなエネルギーが、と思うほどパワフル。かつて1万のプランターの花が村を彩ったように、ここでもまた年を追う毎にたくさんの花が美しく咲いていくことでしょう。

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