リコピンズが拠点としているのが、「食堂ゆすかわ」。標高650~700m、寒暖差が大きい遊子川は、甘みと酸味のバランスがとれたおいしいトマトが採れると約40年前から産地として知られてきました。そのトマトを主体にして、加工品の製造、食堂の運営行っているのです。
集落の細い道を進んでいくと、地域の公民館の横の建物に「食堂ゆすかわ」という文字を見つけました。
公民館との間を通り、入口ののれんをくぐります。70平方メートル程の食堂の中では、おそろいの赤いTシャツにバンダナ姿に身を包んだ女性達が明るく駆け回っていました。テーブルにつき、壁に掲げられたメニューを見ると、週替わり定食「リコピンズランチ」のほかに、キーマカレーやハヤシライス、ナポリタンなどの文字が踊ります。全て700円というお手頃価格も嬉しいところ。
注文したのは一番のおススメだという「リコピンズランチ」。その名の通り、“トマト”をメインとした旬の野菜をふんだんに使った家庭料理とのこと。
しばらくすると、お膳にところ狭しと並んだ料理が運ばれてきました。
この日のメニューは、豚肉の生姜焼き、夏野菜のトマト酢の物、かぼちゃのベジタブルソース焼き、豆腐とトマトのカプレーゼ、青トマトの粕漬け、トマトスープ、ご飯(お代わり自由)の7品。
まず、トマトスープを口にすると、ふわっとトマトの香りが口の中に広がりました。やさしい味付けのスープにトマトの旨みと甘みが溶け込んでいます。見た目はボリュームたっぷりに見えるランチですが、トマトを主体にしたさっぱりとした味付けで、意外にぺろりと食べられてしまうから不思議です。
このランチの味付けにも使われているのが、テーブルの上にも置かれていた「トマトゆずポン酢」。まろやかな酸味が特徴のリコピンズオリジナルの人気商品です。
その最大の特徴は、トマトから作った「トマト酢」を使用していること。トマト酢は、一般的なポン酢のツンとした感じがなく、ゆずの尖った風味もふんわりと和らげてくれるため、とてもまろやかな味に仕上がっています。
実は、そのおいしさが舌の肥えたシェフやバイヤーの目に留まり、現在、東京の伊勢丹三越や高級ホテルとして名高い千葉県のホテルマンハッタンのシェフからも引き合いがあるといいます。
「5,6年前、遊子川で特産品開発をしようというプロジェクトが立ち上がりました。その時『トマトを使おう!』と提案したんです。もともと、遊子川はトマトの産地。私はトマト農家だったので、そのまま開発チームになりました」。
そう話すのは、リコピンズ代表でトマト農家でもある辻本京子さん(63歳)。2年程はボランティアでの参加だったそうです。
最初に出来た商品は「トマト酢」。しかし、なかなか次の段階に進めずに試行錯誤をしていたところ、もうひとつの特産品である「ゆず」果汁に目が留まったのだといいます。
「昔から、遊子川では各家庭で自家製の『ゆずポン酢』を作っていました。そこで、ゆずポン酢のお酢をトマト酢に替えてみたんです。そしたら、ポン酢が苦手だった人も『これなら食べられる』と好評で」と、開発の経緯を振り返ります。
こうして2012年に完成した「トマトゆずポン酢」は、舌の肥えた人達の間で少しずつ話題になり、この小さな集落から都市圏へと徐々に販路を広げていきました。勢いにのり第2弾として開発したのは「こどもケチャップ」。子どもでも食べやすいようシンプルな味つけにしたところ、こちらも好評を博し、一時売り切れ状態にまでなったそうです。
そして2014年、Aコープの跡地を利用し、念願だった「食堂ゆすかわ」と自前の加工所をオープン。現在、辻本さんを始め、本業を持つ女性達約20名で切り盛りしているため、食堂は水曜日と第4日曜日のみの営業ですが、営業日には観光客から地元客まで様々な人が利用しています。同店ができてから、観光地でもない遊子川に年間約2000人もの人が来るようになったというから驚きです。
実は辻本さん、遊子川の出身ではなく、奈良県の出身。Iターンとして就農して、今年で15年目です。
「奈良県で自営業をしていたんですが、閉業してしまって。違う所で再出発しようと知合いに紹介される形で遊子川に来ました。農業だって未経験だったのに、どんどん背中を押されて、初めて訪れてから2カ月くらいで、もう既に移住していました」と笑いながら教えてくれました。
後ろを振り返らないその前向きさが、リコピンズの元気の源なのかもしれません。今では農薬や化学肥料を極力使わず、1反7畝3300本のトマトを栽培するトマト農家として、遊子川でも一目置かれる存在に。
「もともとトマトが大好きだったんです。トマト料理も大好きで、農家になった時も『これでいつでもトマトが食べられる!』なんて思っていました」と辻本さん。
そんな「トマト愛」あふれる、明るく前向きな女性達のエネルギーが「食堂ゆすかわ」の原動力でもあり、人々の愛される所以のひとつなのでしょう。現在、新商品の開発も進めていて、将来的には地域の雇用の場として機能することを目指すとのこと。勢いは止まりません。
リコピンズのキャッチコピーは「まちづくり ひとづくり わかづくり」。
いつまでも若々しく輝く女性達が切り盛りする「食堂ゆすかわ」に、ぜひ、足を運んでみて!
トマトそして遊子川への熱い思いを語るリコピンズ代表辻本京子さん(クリックするとYouTubeで行程が再生されます。)
農家レストラン名 | 食堂「ゆすかわ」 |
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里の物語掲載情報 | /restaurant/38214/426/ |