巷では「農家民宿」という旅のスタイルが流行っていますが、正直言って少し不安なこともあります。プライバシーは?どんなものが食べられるの?お風呂やトイレはどうなっているのかしら。様々な不安から、結局はチェーン系のビジネスホテルに泊まってしまう、そんな方も多いのではないでしょうか。ということで、今回はそんな不安を解消すべく、農家民宿体験をレポートしたいと思います。
「古道の宿 上野屋」があるのは三重県中南部の大紀町。町の9割が山間部という山あいの町です。JR紀伊本線と熊野街道が貫く町ながらいたって静かな環境。熊野街道から大内川沿いの旧道に逸れ、集落を進むと、木造2階建てのひときわモダンな建物が目に入ります。これが本日お世話になる「古道の宿 上野屋」。三重県が推進している“規制緩和型農家民宿”の一軒です。
訪れた日は、その季節にしては珍しい猛暑日。じりじりと照りつける太陽に熱された空気も、打ち水のおかげでここだけはひんやり。
笑顔で迎えてくれたのは小倉均さんと直子さん。ご主人は建築士、奥様は茶道の先生というとても素敵なご夫婦です。
建物の中は、2回窓から差し込む太陽と間接照明の柔らかな光が包み込み、ジャズの音色が響く心地良い空間。まずは最近直子さんが“はまっている”というお手製の梅コーディアルのウェルカムドリンクが登場。甘酸っぱい梅のジュースが喉を潤します。ジュースを頂きながらこの素敵な古民家についても話を伺います。
築150年なるというこの建物は、かつて熊野街道を行く馬喰(馬や牛を売り買いする商人のこと)たちの旅籠として利用されていたもの。時代が移り旅籠としての役割は失われ、食品加工業を営んでいた均さんのお父さんの代には食品加工所として使われていたと言います。年月を経てかなり痛みが目立ってきました建物は、一時は取り壊しという話もでましたが、代々受け継がれていた建物を自分の代で終わらせるのは惜しいと考えた均さんは、2002年にリノベーションに着手します。今でこそ古民家の再利用というのは一般的な認識になりましたが、当時はそういう概念そのものがまだなかったころ。通常の設計とは異なり、現在あるものを活かしながら再生させる工程は苦労の連続だったとか。施工業者と相談を重ね、1年がかりでやっと完成した建物には、抜いた天井を扉にしたり、欄間を逆さにして利用したりと、随所に工夫が凝らされています。
見事息を吹き返した古民家に、さらに生き生きとした表情を与えているのが、直子さんがご実家から持ってきた家具。
直子さんのご実家は開業医で、そこで使われていた診察台や薬品棚を運び込み家具として使っています。お二人の家の歴史が調和した空間。なんとも言えない心地よさに満ちています。
ひとしきりおしゃべりを楽しんだ後は夕食まで自由時間です。
訪れた日はちょうど鮎漁の解禁期間。宿の目の前の川で鮎釣りを楽しむ人の姿が。上野屋には毎年鮎釣り目的に訪れるお客さんもいるそうです。
川を眺めながら辺りを散歩したり、部屋でぼーっとしていると、いつの間にか夕食タイム。「どうぞ」という案内の声でリビングへ降りてきます。テーブルには今日のメニューが。
なんと食前酒に始まり、箸付、前菜、造里、焼物、強肴、揚物、御飯、デザートと、まるで旅館みたいです。民泊という響きから、もちろん地の物で新鮮な素材を使ったものをいただけるだろうとは想像していましたが、こんなに洗練されていたものとは思いませんでした。
土地の食材はぜひ地酒と一緒に味わって欲しいという均さんのこだわりから前菜には食前酒付き。
この日は伊勢志摩サミットで振る舞われたことで一躍有名になった元坂酒造の日本酒が登場しました。この日の豪華メニューをご覧下さい!
まずはお刺身の盛り合わせ、
大内川の天然鮎の塩焼き。
お肉は松阪牛!
そして、肉厚の椎茸が美味しい季節の野菜の天ぷらに
〆は直子さんご自慢のえび天巻き。もうお腹いっぱいなのに、どうしても食べずにはいられない美味しさです。
大紀町って山合いの町だという印象がありますが、実は車で30分も行けば海。美味しい海の幸も味わえるのです。そんな話を聞きながら、お料理を運んだり、片づけたり、少し料理を作ったりするのが“規制緩和型農家民宿”なのです。これも農家民宿の醍醐味です。
食事も終盤にさしかかると、一生懸命腕を奮って下さったお二人も食卓へ。一緒に酒盛りタイムの始まり始まり~♪
地元の文化風習の話から、ご夫婦のこれまでの人生のお話など、通常のホテル宿泊では経験できない話がいっぱい。とても楽しく夜が更けていきます。
ころで、この宿にはテレビはありませんが、オーナーご夫妻とお話をしたり、部屋の窓から清流の流れを見つめているだけであっという間に時間がたっていきます。また、晴れていれば夜は満天の星が広がります。
お風呂場は、昔ながらのタイル張りですが清潔そのもの。
翌朝起きていくと、昨夜はちょっと盛り上がり過ぎちゃってごめんなさいね、と笑うオーナー夫妻。いえいえ、こちらこそ、とっても楽しい時間を過ごさせていただきました!
翌朝も地元の新鮮野菜や天然酵母のパンなど、美味しく体に優しい料理がたっぷり。それにしても食材選びや調理法、器のセレクトなど、ご夫婦のセンス良さに脱帽です。こんな暮らしができたらいいなあ、と憧れてしまいます。
朝食後、荷物をまとめていよいよ出発の時間。すっかり仲良くなったご夫妻と別れを惜しみます。またぜひ帰ってきたい!心からそう思えるような、普通のホテルでは味わえない体験ができました。断言します!もし迷っているなら、まずは一度、農家民宿を体験してみてください。新しい旅の楽しみが広がりますよ。
三重県の中南部に位置する大紀町。町の東部と南部は紀伊山脈の分水嶺を境とし、面積の91%が山林という山深いエリアです。際だって高い山こそないものの、深い山林に覆われた土地は、町内を流れる河川、宮川、大内川、藤川沿いに発展し、熊野街道の中継点として発展しました。その街道沿いにあり、かつて旅籠屋として使われた建物を建築士であるオーナーが今に蘇らせ、現代の旅人に癒...
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